ヤンキース松井秀喜バッティングArchives!?

~松井のワールドチャンピオンになるまでの軌跡を見つめていきます~

Hideki Matsui is on fire right now!!
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WBCに出たことでの思いがけない変化とは?

WBC優勝後のインタビューにて:『野球をやってきてこれだけチームメイトと同じ気持ちで一つの目標に進んだことっていうのは僕はないですし、本当にいい仲間にめぐり合えてもうやばいっすね。』

イチローさんが世界一になった時に仲間って表現したことについて

「僕、プロに入って、言ってみればみんな敵ですよね。その世界でやっていくには、チームメイトに勝って行かなくてはいけないわけだから。敵ですよね。そこから始っているんですよ。だから、まさかプロに入ってそうやって心から一緒に喜べる仲間が出来るなんて想像していなかったんですよ。これがこの1ヶ月の、最後もちろん勝ったことは大きいけど、同じように怒って苦しんで喜んで悲しんで、色んなことや感情を共有したことで初めて出来たことだと思うんですよね。」

去年のこの時期、目標を聞いたらイチローは200本と答えていた。今年の目標は?

「目標が立たないですね。なんだかそういう発想にならない。何でか知らないけど。そういうものを超えた感覚を持ったんじゃないですか。この大会で。そんなもうちっちゃいなみたいな。200本の目標というのは大事なことで、しなくてはいけないことだとは思うけど、ちっちゃいなみたいな。そんな感じになったと思いますよ。だからそういう数字が出てこない。
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グランドに立った時に、おそらく今まではそんなことはなかったですけど、ここ(マリナーズのユニフォーム)には日の丸はどこにも付いていないですけど、僕は心の中に常に日の丸を持つようになるでしょうね。世界一の誇りを持ってグランドに立つと思いますよ。今までどんなプレーをしても、記録を残してこようとも、いちゃもんをつけるやつはいっぱいいますよ。アメリカには。やっぱり(野球は)アメリカのものだと思っているやつはいっぱいいるから。でもそうじゃない。もうそうじゃないよ。悪いけど。日本は世界一だから、ごめんねという感じですよね。だから僕は、その誇りと日の丸を胸に秘めて戦いたいと思います。」

~テレビ朝日「Get Sports」(4/9)より~
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2004年、シーズン中盤、ミスを減らし打てる球を確実にヒットにする長年追い求めていたバッティングの感覚を掴んでいた。しかし、それはとても繊細で失いやすいものだとイチローは感じていた。

「あっ掴んだなと思うことは結構ある。何年もやっていれば何回もある。でも短い間で消えていってしまうこともたくさんある。一週間は良くてもその次の週は駄目でまた違うものを探してみたり、その繰り返しをするんですが。」

5月、6月と調子を落としていたイチロー。6月7日の試合、3打席凡退した後、イチローは自分のバッティングをビデオルームでチェックしたと言う。

「ポイントが全く取れていない。自分が打つべきポイントでボールを全く捉えられていない。」

最初の3打席、甘い球を捉え損ねたイチロー。試合中にビデオを見たのは、インパクトの瞬間に違和感を感じたからだった。

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「これは凄く際どくて、僕にとって難しい球であればしょうがない部分があるが、これはそうではないからね。どっかに見えるところに問題があるはずだと思った瞬間だった。右足の動き出しが物凄く遅い。右足が動かなかったら全部僕の動きは始まらない。右足ですべてが始まるので。それによってはすべての動きが遅れてくる。早くいく分には僕はグリップが絶対に残るバッターなので、そんなに問題にはならない。動き出しが遅れたということは、ボールを見ようとする意識が明らか。目で見ようとしている。」

右足の動き出しが遅いと気づいたイチロー。第4打席目は修正して臨んだ。

「この打席の時は、早く足を動かそうとしている。意識の中では。でも実際見てみるとそんなには早くなっていない。これは多分本来ならホームランにできるボールだけど。そんなに変わっていない。意識はしているが、足が動いてこない。悪い形になったものを直す難しさだね。これは。意識をしても体に染み付いた悪いものは、なかなか取れない。」

目ではなく体でボールを見極める。イチローは右足を意識しながら自分の形を取り戻そうとした。

6月11日の試合、ストライクゾーンを大きく外れたボールを振ったのは選球体が戻ってきた証拠だという。

「この時は動き出しが早く、ピッチャーからボールが離れてから、かなり長くボールを見れる状態になっている。何が悪いか分かれば、後は自分がプレーすれば結果はついてくる。そこには自信がある。」

今シーズン、イチローはホームラン数が増えた。これまで狙わないとホームランにはならなかったイチローには大きな変化だった。

「狙わないでホームランになることはあまり無かった。これまでの形だったら狙わなかったら絶対にホームランにはなっていない形。」

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ホームランが増えたのはフォームを修正したことにあった。右足が早く動き始めることで体のひねりが生まれパワーが引き出された。

「力を生んだわけではない。悪い時点から考えるとそう見えるかもしれないが、悪い時は力を自分で殺していた。狙わないでホームランを打った割合が増えて、ホームランを打てる可能性は広がったかもしれない。」

7月22日の試合。1球目のカーブに空振り。この空振りにベンチは渋い表情をした。

「あの時、100%真っ直ぐに絞っていた。しかし、カーブで左バッターの膝元に大きく落ちてくるボールだった。それを空振りしたのだが、バッターだったらおそらくそういうことって理解できると思う。100%真っ直ぐを狙っていてカーブが来た時に、とんでもない空振りをするということはよくあることなんですが、あれを当てにいくとまずい、それは凄くまずい。」

その後、2球目のストレートをホームランにする。1球目空振りしたことが2球目に活きた。

「1球目の空振りがあるということは、バッテリーは、真っ直ぐを待っているなと思うかもしれない。だけどピッチャーはカーブを投げてきた。で、ああいう形で空振りをしたから、だから次はカーブの意識も持つだろうなという判断がバッテリーにはある。だから、2球カーブは続けたくない。1球目だからあの空振りをしてくれたとバッテリーは思うかもしれない。じゃあ真っ直ぐでいこうという判断だったのだろう。1球見た球をイチローというバッターはインプットするという相手の判断があった。そこを僕はもちろん、この時考えていた。だからもう1球真っ直ぐを待った。それで心理戦に僕が勝った。」

8月調子を落としていたイチローは、相性の良いバーリーとの対戦で2安打し調子を取り戻した。

「相性のいいピッチャーからヒットが出ないとなると技術的に問題があるのかと考えかねない。ヒットが出て本当に良かった。」

過去5年で150本安打を達成するペースが一番遅かった。それでもイチローの200本を達成する自信が揺らぐことはなかった。

「200という数字に対して誰よりも強い気持ちを持っているという自信はあります。それを達成したいという気持ち、そこに行くんだという気持ち。イメージが出来ているという事ですかね。200のヒットに対してイメージできることが強み。」

9月30日、イチローはデビューから5年連続200本安打を達成。イチローは自らが持つメジャー記録を更新した。

「何かを達成した瞬間というのは、いつも"やった"という気持ちにはならない。ここ何年もずっと。どちらかというと、"あ~良かった"という気持ち。それは絶対にやらなくてはいけないことだとプレッシャーを与えているからだと思うのですが。そうなっちゃいましたね。」

今シーズンのイチローのヒットは206本。

「恐怖心だとか不安だとかそういう気持ちは抑えられなかったし、避けられなかった。それでも苦しい中でやらなくてはいけないという事を改めて知った。色んなストレスがあった中で200本と言うのが僕の中で唯一の支えでした。これがなかったらやってられないシーズンでしたね。」

昨シーズン、手にしたバッティングの感覚。206本のヒットを重ね、その感覚の確かさと実際にそれを打席で形にすることの難しさを知ったシーズンだった。

「感覚を失ったことはないですが、バッティングは常に動いているという事ですね。日々とは言わないが、ある時期が経つとなんかまた少しずつ変わっていかなくてはいけない自分がいたり、変わってはいけない部分が絶対あったり。動くんですよねバッティングというのは。これがバッティングは生き物である所以だと思います。これが難しいんですね、バッティングというのは。終わりがないというのもそういう所からきていると思うんですけど。常に意識をしているポイントというのが、常ににはならない。これをやっておけば大丈夫だというものが動いていくんです。それがバッティングだと僕は思っているんですけど。だから答えがないし終わりがない。」

5年連続200本安打、バッターイチローの誇り。

「力を出せば必ず到達できる。今年は力を出せなかったと思っているが、それでも超えていけた。ということは普通に力を出せれば、必ず到達できる数字という事ですね。僕にとっては。だから大きな自信になりました。これだけ思うようにヒットが出ない時期が続いた。それでも200を超えていけた。去年の262本のヒットで得た自信とはまた違う種類の自信ですよね。」

~NHK「日本人メジャーリーガーの群像」(12/25)より~

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イチローは、ボールを見る(選球眼)のではなく体で感じたい(選球体)という。イチローの悪い癖として、ワンバウンドの球を空振りする打席などが続くと、悪球に手を出したくないがためにボールを見ようとし始めてしまう。そうすると、イチローの動き出しのキッカケは右足のステップなのだが、その動作のタイミングが遅くなってしまう。タイミングは遅い、しかしボールは来ている、バットを出さなければならない。そのために腕を使おうとしてしまう。
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イチローの理想は、バットが返る前のボールに最大限力を伝えることが出来る状態で捕らえること。しかし、動き出しが遅くなると体勢が不十分な内に手だけが先に出て、バットが返った後、力が十分伝わらない状態で捕らえてしまう。動き出しの遅れによるこのバットの角度のズレが理想とは程遠い打球の原因となっていた。

5月6月に訪れたイチローの不振。その中で6月7日に放ったショートゴロでイチローはあることに気がつく。
ステップして腰を回していくが、普通は早く手が出ていく。出したくなる。しかし僕は出ない。イチローの本来の特徴として、ステップした後でも手が残るというのがある。つまり、早くタイミングを取ってもバットは出てこないから、泳がされたりすることはない。手が早く出てくる人は、対応できない。だからイチローはタイミングを早く取っても問題ないという。
手を残すという本来のバッティングを再認識したイチロー。それにより、早いタイミングで動き出してもボールが来るまで手を出さずに粘り、ボールを引き付け理想のポイントでボールを捕らえるようになった。

すると、ホームラン数が増加した。

「強くたたけるポイントで打てる確率が高くなったと感じた。」

去年(2004年シーズン)、タイミングはあれでも遅く、ボールをよく見ようとしているところがあったという。イチローは、来シーズン、今のフォーム、タイミングの取り方でいく。これが今の段階では一番いいと感じている。

~テレビ朝日「"イチ流"知られざるイチローの究極」(12/25)より~


・なぜマリナーズは弱いのか。

「基本的な考え方として、プロ野球選手である以上は、個人がないと成立しない。みんなが苦しい。個人もチームも苦しい時に、個人が全体を背負おうと思ったら耐えられない。言い方は悪いが、悪いときほど個人のことを考えるべき。それが力となって集まっていい方向に向かっていくという順番だ。実際チームメイトに聞いてみると本音は分からないがまずチームのためにどうするかをを考えるといっている。それでは僕は潰れると思う。」

・フライを取る際、グラブを最後まで出さずに最後にバッと出すことについて。

「あれはちょっとした僕のこだわり。外野手としての。プレーっていうのは、凄いプレーで人と差がつくんじゃないと思っている。それは凄い分かりやすくて、誰が見ても凄いっていうものは、僕は凄いことの定義から外している。当たり前のフライとかを取る際、人とは違う雰囲気でとか、グラブとボールの柔らかなタッチとか、そういうところで差が出ると僕は思っています。」

「守備のほうが可能性を秘めているしもっと出来るんじゃないかと思っている。」

・自らの役割について

「それぞれの立場ってあるじゃないですか。自分がチームの中でどれぐらいの立場にいるか。影響力のある選手がある程度やっぱり、本音でものを言えないといけないと思うし、それによって色んな刺激が生まれると思う。若い選手にもファンにしてもそうだと思うし。だから僕はそうなりたい。聞いているほうからすると、ちょっと聞き苦しい、厳しいことを言うなぁイチローは、といえるようなことも言わないといけない。昨シーズンは、1人で戦っていた。」

「僕も日本でやって、アメリカでやって次、将来的にどうやって日本の野球に、自分のやってきたことだとか学んできたことを返していくのかというのは考えている。」

~TBS「Jスポーツ」(05/1/22)より~

イチローが、今シーズンを振り返りインタビューに答えていた。

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<2005年シーズン>
・史上3人目・5年連続・100得点30盗塁
・5年連続・ゴールドグラブ賞
・メジャー史上3番目の早さで1000本安打達成
・史上初デビューから5年連続・200本安打達成

イチローの取材を続ける義田貴士氏が、とりわけイチローの凄みを感じる打席があった。

――5月9日、対ランディ・ジョンソンの打席で、見ようによっては力負けヒットのようだったが、単に力負けのヒットではないんじゃないかと感じた。あれはしてやったりですか?

「あれは今年の中では凄く印象的な一打でしたね。僕の中では。」

200以上もあるヒットの中で、詰まったようにも見える何気ないヒットがなぜ印象的だったのだろうか。160kmを超えるストレート、鋭く曲がるスライダーを武器とするメジャー最速左腕・ランディ。
そんなランディゆえの攻略法があの一本に凝縮されていた。そこにはイチローしかなしえない神業的な技術があった。

「球が速いイメージのピッチャーですね。そういうピチャーに対して僕が必ずやっておきたいことの一つとして、あのスライダーを待って一番速い真っ直ぐにどう対応できるかっていうのをやるんですね。」

球速の遅い変化球を待ちながら、球速の速いストレートを打つ。これはかなり高度なテクニック。仮に速いボールを待っているところに遅いボールが来た場合、体が早く動き出してしまってもファールで凌ぐなど何とか対応できる。よって2ストライクと追い込まれたときなど、ストレートを待ちながら変化球にも対応する選手が多いのだが、イチローはその逆の変化球待ちのストレート打ち。普通に考えれば想定のタイミングよりボールが早く来てしまう分、対応し難いはずなのだが、"遅いボール待ち"で速いボールを打ち返せれば、どんな読みでも速いボールに反応できるということになる。

「僕の中では、スライダー半分、真っ直ぐ半分。なので真っ直ぐを会心の当たりで飛ばすという事は、僕の頭の中にはない。ヒットに出来なくともファールで逃げなければならない。そういうことを試した打席。だから、結果としては最高だった。あのスライダーを待っても、一番彼の速い球に対して何とかなるぞと。」

栗山氏のコメント:「感覚的には自分のポイントに対して、相当ボールをさばける幅が広いという事だと思います。体の使い方、スイングスピード、ボールの拾い方、全てがなければ出来ないのでイチローにしか出来ないですね。」

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イチローはシーズンを振り返り、意外な発言をする。

「苦しかったですね。だいぶ苦しかったですね。本当に長かったですね、今年は。」

確かに打率.303は、過去最低の数字、初めて5試合連続でヒットが出ない時期(7月31日~8月5日)もあった。

「5試合ヒットが出ない時間があったんですけど、その辺りがちょうどシーズンの3分の2が終わったぐらいだったんですよ。数字を見てみると、それでも200本のペースを超えていたんですよ。これはいけると思いましたね。いけると思ったし、いかなきゃいけないと思いましたね、そのときに。今までそうやって見えてきた数字に対して、クリアー出来なかったことって僕はないんですよ。それに対するプレッシャーもありましたね。」

――クリアーできなかったことはないという事がプラスに思えたりすることはないんですか?それがよりプレッシャーになるという・・・。

「何でか分からないが、プレッシャーをなくすという事は僕には無理なんですよ。要するに。だから他の選手が、例えばスランプから抜け出して、何かを克服したとかね、力を抜くことを覚えたとか、リラックスしてやることを覚えたとか、信じられないです、僕にとっては。僕には無理ですね。今年も200本、残り3試合で打ったのかな。その後の気持ちも体も全然違いましたからね。物凄い重いものがパーンッと抜けていきましたからね。」

5年連続200本安打達成までには、神業的なイチローの裏に、もう1人プレッシャーと戦う人間的なイチローがいたのだ。これからもイチローはそんなもう1人のイチロー共に歩む。

「まずプレッシャーを受け止めることだと思いますよ。でもまず逃げようとするでしょ。苦しいから。辛いから。まず逃げようとするすべを手に入れたいと思うみたいなんですよね。でも、そうじゃないと僕は思いますね。まあ、そう思うのはしょうがない、でもその後にちゃんと受け入れる自分がいなきゃいけないと思うし、全部受け入れていろんなことに立ち向かっていったけど、それからそういう道を探すのと、それを受け入れる前に最初から逃げる道を探しているのとでは、全然僕は意味が違うと思いますね。」

~テレビ朝日「Get Sports」(11/20)より~


今年なんとなく200本を越えたのではなく、イチローは、もがき苦しんで200本という最高の結果を掴んだんだとうのがよく分かった。イチローは、5年連続200本安打という偉業を決めた今年の206本のヒットに、もしかしたら去年の262安打と同等の充実感を感じているのではないかと思った。事実、イチローは、技術的には昨シーズンより今シーズンの方が上がっていて、ケガや思うような準備の出来ない状況があった中で200本打てたというのは、自分自身の中で凄く自信になったと語っていたという。そんな達成感と満足感が、「古畑任三郎」のドラマ出演を後押ししたのだろう。

いつの間にかイチローは打って当たり前、プレッシャーなどの精神的な弱さとは無縁の高みにいるのではと思いがちになっている自分がいた。しかし、イチローも人間で、精神的な弱さと必死に闘いながら1本1本、魂を込めてヒット打っているんだと教えられた。
これまで超えようとする目標をクリアーできなかったことはなくて、今回それが逆にプレッシャーになっていたというのは、イチローの完全主義者の面がよく表れているなぁと感じた。そんな人間性を持ったイチローだから達成できる記録があって、レベルの高い目標ゆえに他の人には理解できないような葛藤も存在するはずだ。孤独な闘いをしながら野球道を極めようとしているイチローがいるという印象を受けた。
来季は、是非ともイチローのいるマリナーズと松井のいるヤンキースのポストシーズンでの対決を見たい。フレ~、フレ~、イチローーー!!

城島さん、マリナーズとの契約おめでとうございます。

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○異変 その1【3割5分6厘の呪縛】

今年、4月は.356という自己最高の成績を残す。例年4月の成績はいまひとつのイチローにとって、これはかなり突出した成績。実はこの.356という成績がすべての異変の始まりだった。

「去年あれだけの記録を作って、確かなものを掴んだと思って望んだシーズン。それが、スプリングトレーニングからシーズンに入っていって成績としては残っている。しかし、もう一つ"しっくり"きていない自分がいた。成績は出ていてもね。段々4月の成績によって間違いに気づけていない怖さがあった。4月、好成績が出ていることが僕を迷わせた。4月が終わったときに打率が高すぎると言ったんですが、それは本当の話。3割を切らないまでも3割くらいが4月に関してはちょうどいい。ブランクが半年あるわけで最初から完璧には行かない。僕の感覚では。そういう中で、今年みたいな4月を迎えてしまうと怖いなぁとおもいました。5月、6月に入ってボロが出始めたわけですから。ボロとは間違いのこと。」

その言葉通り5月は.288、6月は.243まで打率が落ち込んだ。イチローが指すマイナス要因、間違いとは何なんだろうか。

「動き出してから打つまでの動きの中にはない。ただ動き出すタイミングがおかしい。ピッチャーが投げる動作を始めて、始めの動き出しが遅い。それがなんでかというと、ボールを見ようとする僕がそこにいた。」

この異変が後に大きな副産物を生むとは誰も予想できなかった。

○異変 その2【オールスター】

イチローにとってのもう一つの異変はオールスターでのことだった。

――最後まで出れたという事では例年と違っていた?

「最後まで出たくはないですよ。それはスターターではないという証ですから。選手を紹介する時も特別なところから出ることは出来ないですから、スターターではないという事は悔しいですよ。
オールスターの選手達が僕にバッティングについて聞きに来てくれるという事は、なかなか熱いですよね。いつも必ず来るのはラミレスなんですよ。全然、選手としてのタイプは全然違うんですけど、足を使ってタイミングを取る選手。そこで僕との共通点を感じてるからだと思うんですけど。あんなバリバリのオールスター中のオールスターですよね。その選手にあれが出来る凄さはありますよね。変なプライドもなくバッティングについて聞きに来るのは驚きますね。自分に出来るかなぁと考えると、僕にはたぶん出来ないですね。」

○異変 その3【副産物】 

9月、イチローが意外な言葉を口にする。

「野球って難しいですね。」

今シーズン、イチローのホームラン数が、過去4年と比べると増えている。キーワードはホームラン。

「確かにホームランの内容を言えばこれまでと違うんですね。これまではほとんどが狙ったホームラン。逆に言えば狙わないとあそこまで飛ばなかったものが、今年は狙わなくてもホームランになることが確かに多いので、内容は違うと思います。」

このホームランこそが、シーズン前半の異変がもたらした副産物だったのだ。

動き出しが遅い。このことに気がついたイチローは早速フォームの改造に取り組んだ。改造前の4月は、ピッチャーがボールを投げるために後ろに腕を引く際、まだ手が下にある時点、つまり時計でいうと7時の位置で始動(右足をステップするために上げる)が始まっていた。改造後の7月は始動を始めるタイミングがピッチャーの腕が上にあるとき、つまり時計の10時の位置だった。

では、なぜ動き出しが遅くなるという現象が起きたのか。

「ボールを見ようとしている僕がいたんですね。そこに。」

この言葉にこそ一般の野球常識を覆すイチロー独自の世界が凝縮されている。

「もちろんボールを見ないと打てないですけど、ボールを見ようとする行為に問題があった。打撃の中でボールをよく見て打つというのが基本といわれていますけど、それは大きな間違いだと思いますね。僕は。少なくとも、その基本は僕には当てはまらない。目でボールを見ようとすることによって、本来、体が動かなきゃいけない部分を止めてしまう。目でボールを見ようとすることによって、目から入ってしまうんですね。それで体に来るんでどうしても遅くなってしまう。それが、体でボールを見られれば、体が主導ですよ。そこが今回の間違い。目でボールを見ようとしたことが、最大のミス。
結果が出ないようになってくると、いい球、甘い球というのを待って、甘い球しか打てないように感じてくる。だから、ピッチャーの投げた甘い球をどうにかして打とうとするわけですけど、そうやって思った時点で、ストライク、ボールを目で追うようになってきてしまう。全部動き出しのポイントに繋がっていく。始動を早くしたらすべてを修正できた。」

4月の異変は、始動を早くするというフォーム改造に繋がった。そして、狙わなくてもホームランになるというこれまでにない副産物を生んだ。メジャー5年目にして多くの異変が起きた今シーズン。男は何を思うのか。

「簡単にならないですね。なるかなと思ったんですけどね。なかなかなってくれない。すべて、打つこと、守ること。ゴロを取るタイミングが分からなくなったり、走塁はいつだって難しいし、野球って難しいですね。」

~テレビ朝日「Get Sports」(9/18)より~


バッティングについて超一流のイチローが、今シーズン不本意な成績に終わった理由について始動するタイミングの遅れというバッティングの基本を挙げたのには驚いた。それだけタイミングというのはバッティングに於いて重要で、永遠の課題なのかもしれない。
「ボールをよく見て打つのではなく、体主導で打つ」と語ったイチロー。頭で考えて打つのではなく体の反応、感覚に任せて打つという事か。ある程度、バッティングというのはバッターの本能による所が大きいんじゃないかと想像してみた。

昨シーズン、歴史を塗り替えたイチロー。そんなイチローでさえも、掴んだバッティング感覚というものは、その場に留まり続けてくれるという事は無く、常に変化して消えてしまう。だからこそ、バッティングの追及は、どんな優れたバッターでも永遠に終わることがないんだなぁと痛感させられた。

4月、例年になく高い打率を残したイチロー。

「数字を残すことで自分がだまされてしまう。何かしっくり来ない、何かもう一つ違うなぁというものを感じている自分がいるのに、成績が残ってしまうことでそれを消してしまう。」

その違和感は、5月に入ると徐々に形となって表れてくる。本来イチローは、ストライクゾーンから外れた球であっても、打てると思った球は迷わず振りに行くバッターだった。しかしこの時期、その積極性は影を潜めてしまった。このボールを打つのか、見送るのか一瞬のためらいがズレを生じさせていた。

「本来の自分の姿を殺してしまってボールを良く見ようとする。結局それは選球眼に頼ろうとしている。目でストライクかボールか判断しようとしている。それが落とし穴だった。ボールを良く見ようとすることの恐ろしさ。やっぱりボールは体で感じなくてはいけない。」

己のバッティング感覚を見失ったイチロー。6月、自分を取り戻すきっかけが突然訪れる。6月11日、対ナショナルズ戦。2ストライクと追い込まれ迎えた3球目。高めに大きく外れたボール球を空振り。しかし、イチローはこの空振りが違和感を消し去ってくれたと感じていた。

「これは何の問題もない。僕の中で。これは打てると思って打ちにいっている。体が打てると思っている。それで結局は空振りをしているわけだが。見極めようとして手が出てしまった空振りと打てると思って打ちにいった空振り、見てる人は同じように見えるかもしれないが、僕の中では全く違うもの。」

イチローの体に本来の感覚が戻ってきた。7月に入ると結果が伴い始める。複数安打も増え打率を3割台に乗せる。思わぬ苦しみを経験し、イチローは野球の奥深さを改めて感じていた。

「見えているようでも見えていない。自分のことが。野球というのは恐ろしい。そう感じている。これがあれば大丈夫っていうのもが動いていく。形は同じように見えても、見えていない所で感じているものが変わっていったりしている。」

~BS1「2005オールスター直前!MLB前半戦の主役たち」より~

理想は280本4割。ポテンシャルは同じでも表現できることが変わって来た。そのためその理想の成績は、ほんの少しだが現実的になってきたんじゃないか。

バッティング感覚を「あっ掴んだな。」と思うことは結構ある。でもダメになってまた違うものを探す、この繰り返しだった。だが咋シーズンで得たものはそれとは全く違う。咋シーズン後半のあの結果があの長い期間で出たことは、打撃感覚・打撃フォームをものにしてなければ起こり得ないこと。
今年もあの感覚が続いていてくれるのかと不安だったが、今年バッティングを始めてその不安はすぐに吹き飛んだ。

今、焦りは全くなく打撃に関して探しているものは現段階では無い。

開幕戦はガチガチに緊張すると思うが、しっかりとプレーしたい。オープン戦で連続試合安打が20でストップし悔しい思いをした。そういう意味ではもう開幕しているような感覚でいる。

~BS1「開幕!MLB2005観戦ガイド」・NHKニュースより~


イチローが4割を目指すには今年が一番チャンスじゃないかと思う。身体的にも最も油が乗り、昨シーズンの7月1日にきっかけを得た新しい打撃フォームを自分のものにし体現でき、迷いの無い今年こそイチローの年になりそうだ。

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イチローが去年、大記録を達成した要因の一つにシーズン途中のバッティングの変化があった。
バッターボックスで右足を少し引きオープンスタンスにした。背筋に意識をおいて構えると自然とバットが寝た。バットが寝ることによって、バットが遅れて出てくるために最後までボールを見極めて確実に捉えることが出来るようになった。
イチローもシスラーもバッティングでボールを捕らえるまでのスイングを「バットを線に入れる」と表現した。ヒットを打てるか打てないかは、すでにバットの振り出しの時点で決まっている。バッティングをするということは、ヒットを打てる正解のスイングラインにバットを乗せるという感覚なのだろうか。

【技術とパワー】
・シスラー 
バッティングの基本は、バランス、バットコントロール、タイミングの三つ。パワーを身に着けることは悪いことではないが、パワーというものはホームランだけでなく強いライナー性のヒットを打つことにも活かせる。
・イチロー
その三つの要素が揃うことによってはじめてパワーが生まれる。今は、パワーが第一に来ていて、パワーがあれば何かを補うことが出来るという錯覚に陥っている風潮がある。技術なくして薬を使ったりして体を大きくし、パワーに頼る今のメジャーリーグは明らかに退化している。

【頭の回転】
・シスラー
バッターは頭を早く動かしがちだが、これは間違い。左バッターの場合、レフトあるいは左中間方向にあるスポットを選び、スイングした後、そのスポットを見るつもりでスイングするとよい。
・イチロー
表現は違うが、スイングする際、最後まで左肩をピッチャー側に見せないでボールを待つことが大事ということをシスラーは言っている。バットを振りにいって、左肩が早い段階に回転してピッチャー側に見えてしまうとバットも自然と出てくることになる。そうなるとピッチャーの球の前後の緩急(スプリット、チェンジアップ)に弱くなってしまう。
左肩をぎりぎりまで動かさずグリップを最後まで出さないでボールを見ることによって対応力が上がる。

【ストライクの見逃し】
・シスラー 
常にストレートを打てる状態でボールを待つ。ストレートを待ってカーブやチェンジアップにも対応できるのが理想。
・イチロー
ストレートを待って変化球に対応するのは基本。しかし、それがベストだとは思わない。時にはカーブを待って速いストレートを打てるのが理想。すごく難しいテクニックだが、これが出来たら怖いものはない。 

【カーブ打ち】
・シスラー
カーブをうまく打つには、三塁側のフィールドに打つのが基本。カーブを打つにはスイングの開始を少しだけ遅らせて、ボールがホームベースを通り過ぎ、キャッチャーのミットに届く寸前まで見極めて打つ。
・イチロー
シスラーが言いたいのは、結局はグリップが最後まで残らないといけないと言うこと。速いストレートにあわせて待つと、体の対応は多少速くなる。そこで遅いカーブが来た時にグリップの位置が前に出てしまっていては、チャンスはない。肩が開かずにグリップの位置が、構えたときの位置にまだ残っているから初めて打てる。

【正確な判断】
・シスラー
バッターは正確なストライクゾーンを把握し、バッターボックスでは落ち着き払い、過度に緊張しているということは、ピッチャーには見せてはいけない。ピッチャーの巧妙な罠に引っかかるため、狙い球を事前に決めてはいけない。打つ時は頭を使い、冷静に判断し、敵のピッチャーに翻弄されている姿は絶対に見せるべきではない。
・イチロー
これはイチローもバッティングのときにモットーとしていること。相手の選手、更に味方の選手にも考えていることを悟られないというのは重要なことで、レベルのほとんど変わらない中で結果を出していくには必要となってくる。感情むき出しで来られるとやりやすい相手となってしまう。

最後にイチローがシスラーの考えに触れ感想を語っていた。

84年前に活躍したシスラーが、どんなことを考え野球をやっていたのかをほんの少し分かってくると、今の野球界は明らかに後退してきている部分があると感じる。まず、それが正常に戻ることを祈っているし、そういう信念を持った選手が結果を残していかなければならない。僕は幸運にもそういう立場にいるので、何かを示して生きたい、きっかけを作っていきたい。シスラーは今後も意識していきたい。ライバルとして、目標として。

~TBS・筑紫哲也NEWS23「シスラーからイチローへ 時空を超えた一通の手紙」より~


イチローは確固たるバッティング理論を持っていて、またそれを的確に言葉で表現できる能力も持ち合わせた稀有な選手。去年のシーズン後半のバッティングの変化は結果的に、子供の頃にしていたバッティングに近づいた。何か大きなヒントを掴んだに違いなく、去年以上の成績が確実に今シーズン期待できるだろう。

イチローインタビュー
イチローがテレビのインタビューに答えていた。

打席に入って7割はヒットに出来る感覚にある。過去三年間、いかにミスを減らしてヒットに出来ると思ったポールをヒットに出来るかを考えてきた。 一年目の成績を超えられないのは、心に問題があると考えていたが記録は上がらなかった。 今年、それが出来たのは技術の向上だった。

そこでたどり着いたのは子供の頃に似た一番自然なフォーム。 毎年、体も気持ちの部分も変わる。 だから、調子の良かったときのフォームが、毎年あてはまるとは限らない。 基本は変えないで、それ以外は今に合っているものへ変化させていく。 重用なのは技術の向上。 キーワードは、意識の変化と技術の追究。

その技術によって5の5というイメージを何回も経験したという。 そういう心理状態でバッターボックスに入れば自然とヒットは増える。 技術に対する自信が余裕を生みイメージしたヒットを打つ確率を高める。


”イチ流”~メジャーリーグの歴史を変えた男~(12/26放送・テレビ朝日)より

シーズン途中イチローのバッティングが変化した

先ずインコースに対応できるように,また最後までボールを呼び込むためにスタンスをこれまでより広げオープンスタンスで打席に入るようにした そして軸がぶれない様にこれまで通り背中に意識を置いて構えると自然とグリップの位置が上がりバットがねた バットがねることによって最短距離でバットにボールを当てることができる様になる インサイドアウトにバットを出して手首を返さずバットの面を一定に保ちボールを押し出すように打つ
これによって一見窮屈そうに見えるバッティングだが確実にレフト方向に打ち返すことが出来るようになった

このバッティングフォームと感覚を掴んだ6月中旬以降イチローの言う必然のヒットつまり何故ヒットになったか説明の出来る安打数が格段に増え7月,8月の好調に繋がった あの記録的な成績はイチローにとっては予想の範囲内で当然の結果だったという

そしてシーズン最多安打へと一気に加速していくことになる

現状に満足する事なく常に理想のバッティングを追い求めシーズン途中でも躊躇する事なくバッティングフォームを改良していくそんなイチローの野球に対する姿勢がシーズン最多安打を生んだ

~2004 イチロー 新記録への軌跡~より (NHK BS1)

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