
イチローが去年、大記録を達成した要因の一つにシーズン途中のバッティングの変化があった。
バッターボックスで右足を少し引きオープンスタンスにした。背筋に意識をおいて構えると自然とバットが寝た。バットが寝ることによって、バットが遅れて出てくるために最後までボールを見極めて確実に捉えることが出来るようになった。
イチローもシスラーもバッティングでボールを捕らえるまでのスイングを「バットを線に入れる」と表現した。ヒットを打てるか打てないかは、すでにバットの振り出しの時点で決まっている。バッティングをするということは、ヒットを打てる正解のスイングラインにバットを乗せるという感覚なのだろうか。
【技術とパワー】
・シスラー
バッティングの基本は、バランス、バットコントロール、タイミングの三つ。パワーを身に着けることは悪いことではないが、パワーというものはホームランだけでなく強いライナー性のヒットを打つことにも活かせる。
・イチロー
その三つの要素が揃うことによってはじめてパワーが生まれる。今は、パワーが第一に来ていて、パワーがあれば何かを補うことが出来るという錯覚に陥っている風潮がある。技術なくして薬を使ったりして体を大きくし、パワーに頼る今のメジャーリーグは明らかに退化している。
【頭の回転】
・シスラー
バッターは頭を早く動かしがちだが、これは間違い。左バッターの場合、レフトあるいは左中間方向にあるスポットを選び、スイングした後、そのスポットを見るつもりでスイングするとよい。
・イチロー
表現は違うが、スイングする際、最後まで左肩をピッチャー側に見せないでボールを待つことが大事ということをシスラーは言っている。バットを振りにいって、左肩が早い段階に回転してピッチャー側に見えてしまうとバットも自然と出てくることになる。そうなるとピッチャーの球の前後の緩急(スプリット、チェンジアップ)に弱くなってしまう。
左肩をぎりぎりまで動かさずグリップを最後まで出さないでボールを見ることによって対応力が上がる。
【ストライクの見逃し】
・シスラー
常にストレートを打てる状態でボールを待つ。ストレートを待ってカーブやチェンジアップにも対応できるのが理想。
・イチロー
ストレートを待って変化球に対応するのは基本。しかし、それがベストだとは思わない。時にはカーブを待って速いストレートを打てるのが理想。すごく難しいテクニックだが、これが出来たら怖いものはない。
【カーブ打ち】
・シスラー
カーブをうまく打つには、三塁側のフィールドに打つのが基本。カーブを打つにはスイングの開始を少しだけ遅らせて、ボールがホームベースを通り過ぎ、キャッチャーのミットに届く寸前まで見極めて打つ。
・イチロー
シスラーが言いたいのは、結局はグリップが最後まで残らないといけないと言うこと。速いストレートにあわせて待つと、体の対応は多少速くなる。そこで遅いカーブが来た時にグリップの位置が前に出てしまっていては、チャンスはない。肩が開かずにグリップの位置が、構えたときの位置にまだ残っているから初めて打てる。
【正確な判断】
・シスラー
バッターは正確なストライクゾーンを把握し、バッターボックスでは落ち着き払い、過度に緊張しているということは、ピッチャーには見せてはいけない。ピッチャーの巧妙な罠に引っかかるため、狙い球を事前に決めてはいけない。打つ時は頭を使い、冷静に判断し、敵のピッチャーに翻弄されている姿は絶対に見せるべきではない。
・イチロー
これはイチローもバッティングのときにモットーとしていること。相手の選手、更に味方の選手にも考えていることを悟られないというのは重要なことで、レベルのほとんど変わらない中で結果を出していくには必要となってくる。感情むき出しで来られるとやりやすい相手となってしまう。
最後にイチローがシスラーの考えに触れ感想を語っていた。
84年前に活躍したシスラーが、どんなことを考え野球をやっていたのかをほんの少し分かってくると、今の野球界は明らかに後退してきている部分があると感じる。まず、それが正常に戻ることを祈っているし、そういう信念を持った選手が結果を残していかなければならない。僕は幸運にもそういう立場にいるので、何かを示して生きたい、きっかけを作っていきたい。シスラーは今後も意識していきたい。ライバルとして、目標として。
〜TBS・筑紫哲也NEWS23「シスラーからイチローへ 時空を超えた一通の手紙」より〜
イチローは確固たるバッティング理論を持っていて、またそれを的確に言葉で表現できる能力も持ち合わせた稀有な選手。去年のシーズン後半のバッティングの変化は結果的に、子供の頃にしていたバッティングに近づいた。何か大きなヒントを掴んだに違いなく、去年以上の成績が確実に今シーズン期待できるだろう。